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東京高等裁判所 昭和56年(行ケ)307号 判決

一 請求の原因1ないし3の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、審決を取消すべき事由の存否について判断する。

原告は、本願発明の技術的内容について、審決が「義歯と義歯床とを組合せた全体の形状が、内外方向の断面形状を三角形体とすること」のみを本願発明の主たる要件として認識し、「義歯自体の形状」は特に限定されたものではないとして、「義歯自体の形状もまたその内外方向の断面形状が三角形体であること」については、本願発明の要件として理解しなかつた点を誤りであると主張する。

本願発明の明細書の「特許請求の範囲」の記載が、請求の原因2の項のとおりであることについては当事者間に争いがないところ、そこには、「三角形体の安定の原理に基づく上下一組の義歯と義歯床をそれぞれ馬蹄形状に構成結合し」と記載されているが、右の「三角形体」の意義や「三角形体の安定の原理に基づく上下一組の」なる文言が、「義歯」と「義歯床」の両者にそれぞれかかるものかあるいは「義歯と義歯床」を組合せた全体にかかるものかは、特許請求の範囲の記載上からは明確ではない。そこで、本願発明の明細書の「発明の詳細な説明」の記載を参酌するに、成立につき争いのない甲第二号証の二(本願発明の明細書)によれば、本願発明は、従来の総合義歯が単に義歯床を歯ぐきに載置しているにすぎないことから、義歯床に安定性がなく、そのため、歯ぐきに炎症又は損傷を生ぜしめていた欠点を改良すべく、「義歯の頂点である咀嚼面及び側面に加わる力を常に義歯床の底面(「底部」の趣旨と解される。)の重心に吸収せしめて義歯床を安定せしめ」(三頁一三行ないし一五行)、「咀嚼によつて各義歯の咀嚼面に生ずる圧力は……常にその圧力の重心を結ぶ線R´上に吸収せしめるのが本発明の主眼とするところ」である(二頁八行ないし一三行)ことが認められる。したがつて、本願発明にあつては、「義歯と義歯床との結合体」が全体として三角形体をなしていれば、前記のごとき作用効果を奏しうるものである。右のことからしても、「特許請求の範囲」における「三角形体の安定の原理に基づく上下一組の」なる文言は、「義歯と義歯床」の全体にかかり、「義歯と義歯床」全体を基本的にその内外方向の断面が三角形体になるように構成したものと理解するのが相当である。しかも、右のような作用効果や「本発明は、この目的達成のために、三角形体の安定の原理を利用して、義歯と義歯床の組合せによつて、総合的に構成するものである。すなわち、三角形の二辺と底辺の関係を三角形体の側面と底面の関係たらしめようとするものである。」(本願発明の明細書三頁八行ないし一二行)との記載に徴すると、「義歯と義歯床との結合体」の断面形状が示す三角形体とは基本的に二等辺三角形であることが窺われる。本願発明の明細書全体の記載を検討してみても、義歯自体の断面形状を特定形状とし、この特定の形状をもつ義歯の形状を利用して、これを義歯床に配置する構成やこれによる作用効果を理解しうる特段の記載を見出すことができない。したがつて、原告の主張する本願発明の明細書添付の第1図及び第2図も義歯の一般的形状を例示したにすぎないものといわざるをえない。

右のとおりであるから、審決が本願発明の技術的内容を誤解したとする原告の主張は理由がない。

成立につき争いのない甲第一〇号証の二(第一引用例)によれば、第一引用例の第2図には、部分義歯床に関してではあるが、基本的に断面形状を三角形体(本願発明にかかる別紙図面(一)の第2図対照)に形成した義歯と義歯床とを馬蹄形状に構成結合したものが示されており、かつ、一般に総合義歯床とするか、部分義歯床とするかの選択は、義歯本数の程度などによつて当業者が当然行う事項であり、このことは、原告も特に争わないところであるから、審決が、本願発明を引用例記載の公知、周知のものと、設計技術に基づき当業者が容易に発明をしうるものとした拒絶理由の判断を是認したことには、誤りはない。審決には、何ら違法の点はない。

三 よつて、審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとする。

〔編註その一〕 本願発明に関する事項は左のとおりである。

1 特許庁における手続の経緯

原告は、昭和四五年一二月一二日、名称を「特殊安定装置による総合義歯」とする発明(以下「本願発明」という。)について特許出願(昭和四五年特許願第一一〇六七二号)したところ、昭和五〇年六月二四日拒絶査定を受けたので、同年七月一七日、審判を請求し、昭和五〇年審判第六四五九号事件として審理された結果、昭和五六年九月三〇日、「本件審判の請求は成り立たない。」との審決があり、その謄本は同年一一月二三日原告に送達された。

2 本願発明の明細書の「特許請求の範囲」の記載

「総合義歯による咀嚼の完璧を計るため、三角形体の安定の原理に基づく上下一組の義歯と義歯床をそれぞれ馬蹄形状に構成結合し、咀嚼によつて生ずるすべての圧力を、それぞれ重心を結ぶ線RR´上に吸収せしめてもつてその絶対の安定を得せしめんとするその総合義歯と義歯床。」(別紙図面(一)参照)

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

図面(一)

<省略>

図面(二)

<省略>

図面(三)

<省略>

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